パーキンソン病のガイドライン

社会の高齢化とともに増えているパーキンソン病。 2018年5月に改訂されたパーキンソン病のガイドラインは、11年以来、7年ぶりの改定で、その間の新たな知見や、 近年の新しい診断法・治療法の登場が反映された、現時点での標準的な診療の指針となっています。


■パーキンソン病と診断される症状の定義が変わった

現在のところ、パーキンソン病を確実に診断できる検査法がないため、診断は主に症状を基に行われます。 改訂されたガイドラインでは、その中核となるパーキンソン病の症状(パーキンソニズム)の新しい定義が示されています。 パーキンソニズムの新しい定義では、「運動緩慢がみられる」ことが必須とされ、加えて「静止時振戦か筋強剛のどちらか1つまたは両方がみられる」 ものと定義されています。静止時振戦で代表的な手足の震えは、一般の人にもよく知られる症状ですが、患者さんによっては現れない場合もあり、 震えが出ないからパーキンソン病がないとはいえません。 従来の定義に含まれていた「姿勢保持障害」が外されていますが、これはパーキンソン病の姿勢保持障害は症状が進行してから現れることがほとんどで、 早期からこの症状がある場合には、むしろほかの病気が疑われるためです。 新しい診断基準では、この定義に当てはまる症状があることに加えて、さらに、他の病気の可能性を示す要因がないか、 パーキンソン病の可能性を高くする要因があるか、などから鑑別します。 また、「MIBG心筋シンチグラフィー」「嗅覚検査」などの新しい補助診断法も盛り込まれています。 早期のパーキンソン病をより確実に診断できる基準になったと言えるでしょう。


■できるだけ早期に治療を始めて患者さんに応じた薬を使う

薬物療法の開始については、原則として、診断後できるだけ早く治療を開始することが推奨されています。 かつては、L-ドパを早期から使うと早く効かなくなるのではないかという懸念から、L-ドパの使用開始をなるべく遅らせようという考え方がありました。 しかし、それは長い目で見れば患者さんのためにならないことがわかってきました。 高齢者は、運動合併症が出にくく、ドパミンアゴニストの有効性が明確でないため、一般にL-ドパで治療を始めます。 一方、若い人では運動合併症のリスクが高いため、ドパミンアゴニストで治療を開始するのが一般的です。 しかし、若い人であっても、運動障害で日常生活に支障を来している場合には、症状の改善を優先して、 最初からL-ドパで治療を始めることが勧められています。 その効果を見て、症状が十分に改善されれば治療を続けながら経過を観察し、効果が不十分なら薬の増量や変更、追加を検討します。 十分な効果を得るには、必要な量の薬をしっかり使ってください。


■薬が効きにくくなったら、増量や併用、機器による治療を検討

パーキンソン病が進行して、薬が効きにくくなってきたら、増量や他の薬の併用が必要になります。 ガイドラインでは、次のように段階的に治療を強化していく方法が示されています。 例えば、ドパミンアゴニストで治療を始めた人ならL-ドパを加える、L-ドパを1日3回使っていた人なら4回、5回と増やしたり、ドパミンアゴニストを加えます。 それでも薬の効果が切れて症状が出るなら、ドパミンを効率よく使うための薬(COMT阻害薬、MAO-B阻害薬、アデノシンA2A受容体拮抗薬、 レボドパ賦活薬)を併用します。それでも不十分なら、さらにL-ドパの回数を増やしたり、ドパミンアゴニストの増量や、種類の変更を行います。
近年、ドパミンアゴニストには、従来の内服薬のほか、皮膚に貼って使う貼付薬、自己注射が可能な即効性の皮下注射薬も登場し、選択肢が増えています。 このように薬をさまざまに使っても症状が十分に改善しなければ、機器を利用した「デバイス治療」も検討されます。 日本では、現在、脳深部刺激療法とL-ドパ持続経腸療法の2つがあります。 対象の目安は、L-ドパを1日5回以上使っていても、ウェアリングオフが2時間以上、問題になるジスキネジアが1時間以上ある場合です。


■治療はどう変わる?

新しいガイドラインの診断基準によって、パーキンソン病の早期診断はより高い精度で行えるようになってきています。 早期に診断して早期に治療を行った方が、その後の経過がよいことは明らかです。 本人や家族など周りの人がパーキンソン病のような症状に気付いたら、早目に脳神経内科を受診するようにしてください。 パーキンソン病と診断されてからも、医師任せではなく、患者さん自身が「自分のために治療を受ける」という意識を持って、積極的に情報を集めることが望まれます。 長期に治療を続けることが必要ですが、費用もかなり掛かるため、治療を選択する際には、治療で得られる効果と費用のバランスも重要なポイントになります。 診断や治療について迷うことがあれば、セカンドオピニオンを求めることなどを検討してもよいでしょう。